5分でわかる和紙の基礎知識|江戸時代の活用シーンを浮世絵で

浮世絵に描かれている和紙素材の道具

和紙は日本文化に深く根付いた伝統素材で、1400年もの歴史があります。和紙の歴史、原料、製法、特徴、用途を基礎知識としてまとめました。
和紙が庶民の間に広く普及したのは、江戸時代です。江戸時代の浮世絵に描かれている和紙の用途を紹介します。

和紙の歴史


紙は中国から伝来し、その後、日本で和紙として進化をとげました。
和紙は時代を経るに従い、使用する人々の裾野が広がり、江戸時代にピークを迎えます。時代とともに和紙の使われ方がどのように広がったのか解説します。

年 代 状 況

紀元前2世紀ごろ

紙の発明

和紙の元となる紙は紀元前2世紀頃、中国の役人、蔡倫(さいりん)により発明されました。

4~5世紀

日本への伝播

紙は中国大陸から書物として日本に伝わりました。
紙の製法もこの頃伝わり、「日本書紀」には610年に高句麗の僧、曇徴(どんちょう)が伝えた、とあります。

その後、日本独自の素材や製法を取り入れ、和紙へと発展していきました。

7~8世紀

国内での普及

飛鳥時代に日本に仏教が広まると、仏教の経典を複製する写経が盛んになり、紙の需要が高まりました。
「日本書紀」には紙漉きに関する記述があり、美作、出雲、播磨、美濃、越で紙漉きが行われた、とあります。

9~11世紀

貴族社会での普及

平安時代(9-11世紀)になると、和紙は貴族の間で書物、手紙、懐紙、巻物として使用され、平安文化の発展に寄与しました。
『枕草子』『源氏物語』『源氏物語絵巻』といった日本文化を代表する文学作品にも和紙が使われました。

貴族の邸宅である寝殿造りでは障子、襖、衝立、屏風等の仕切り建具の素材として、和紙が使用されました。

12~16世紀

武家社会での普及

鎌倉時代(12-14世紀前半)以降、政治の中心が貴族から武家に移りました。武家の世界でも記録や建具素材として、和紙の利用が広がりました。

室町時代には水墨画や仏教画、掛け軸、屏風絵、襖絵などで和紙が使われました。

 

17~19世紀

庶民への普及

江戸時代(17-19世紀)になると、和紙は庶民の間にも広まり、生産量が急増します。
傘や浮世絵、かわら版、ちり紙など、庶民の日用品としても利用されました。

日本各地で和紙が大量に生産されるようになります。

20世紀以降

ユネスコ無形文化遺産への登録

明治以降、洋紙の普及や他の素材への置き換えが進み、和紙の生産量は減っていきます。

2014年に「和紙 日本の手漉き(てすき)和紙技術」はユネスコ無形文化遺産に登録されました。
登録されたのは石州半紙、本美濃紙、細川紙の3紙で、3紙に共通の特徴は国産の楮のみを原料としている点です。

和紙の原料と製法


原料

和紙には麻や楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)、桑、竹、など多くの原料があります。
今回は麻、楮、三椏の原料で作られる和紙の特徴を説明します。

■麻
古い時代に使われていた和紙の原料です。繊維が強いため、煮たり、すり潰したりして使われました。
楮が登場するまでは和紙の主要な原料でした。

■楮
現在、最も多く使われている和紙の原料です。繊維が長いため、丈夫な紙を作ることができます。
楮は成長が早く、2-3年で収穫できるので環境に優しい原料です。

■三椏
繊維が細いので柔軟性と光沢感のある仕上がりになります。
「世界一品質が良い」と言われている、日本の紙幣の原料に使われています。

和紙の製法

和紙の製法は「手漉き」と「機械漉き」があります。
手漉きにも「流し漉き」と「溜め漉き」があります。
それぞれの製法の特徴に関して説明します。

■手漉き と 機械漉き
和紙の製法は大きく、手漉きと機械漉きに2分されます。
機械漉きは均一の品質の紙を、大量に生産するのに向いています。
手漉きは紙を漉く人の個性が現れます。また、様々な素材を和紙に漉き込むことによって、デザイン性の高い和紙を作ることができます。

■流し漉き と 溜め漉き
手漉きの方法には、流し漉き と 溜め漉き があります。平安時代の和紙は、溜め漉きで作られていましたが、その後の時代では、流し漉きの方法が主流になりました。

流し漉き と 溜め漉き では材料が異なります。
流し漉きではネリという材料を加えますが、 溜め漉きには使いません。ネリは和紙の繊維のちらばりを促し、繊維の絡みを助ける効果があります。
溜め漉きでは紙を漉いた後に、湿紙同士がくっつかないように、布を間に挟んで重ねていきます。
流し漉きはネリの効果により繊維の結束力が強まり、紙がくっつきにくくなるので、布は使わず、直接湿紙を重ねることができます。

■江戸時代の和紙工房

タイトル:職人尽図鑑 紙漉き 作者:菱川師宣 所蔵:大英博物館

江戸時代の絵師、菱川師宣が描いた、和紙工房のようすです。
屋内では和紙を手漉きしています。屋外では和紙を板に貼って乾かします。板の間では和紙を切りそろえて梱包する人物が描かれています。

和紙の特徴と用途


和紙には強さ、保存性、吸湿性という3点の特徴があります。

強さ

和紙の強さの秘密は、繊維の長さにあります。
楮の繊維の長さは約7ミリ、洋紙の原料であるパルプは1~2ミリです。

写真の左が和紙(楮)、右側が洋紙(コピー用紙)の拡大写真です。
紙に折り目をつけて左右に引っ張り、破れた裂け目を撮影しました。
和紙は長い繊維が絡まっている事がわかります。

和紙と洋紙の裂け目の拡大図
左:和紙(楮)          右:コピー用紙

洋紙に比べて軽いにも関わらず、破れにくく、しなやかで水にも強い、という特徴は繊維の長さに由来するのです。

吸湿性

和紙は長い繊維が絡み合っているため素材の表面積が大きく、水分を吸収したり放出したりして、湿度を調整する機能があります。
夏は高温多湿、冬は乾燥という日本の気候を過ごしやすくするために建具の素材として使用されました。

保存性

正倉院(東大寺の財宝庫)には今から1000年以上前に使われた紙が残されています。和紙の保存性の高さを示す事例です。
洋紙の寿命は、酸性紙が100年、中性紙が3ー400年と言われています。
和紙の1000年以上という寿命がいかに優れているかおわかりだと思います。

和紙の用途

和紙の持つ強度、吸湿性、保存性という特徴を生かした様々な用途があります。

■明かり
和紙は裏が透けて見えるほど、薄く作ることができます。薄い紙は光を通します。光の通しやすさを利用したのが障子や行灯、提灯、灯籠など照明に関連する道具です。
和紙は柔らかで温かみのある明かりを生じます。

■雨具
和紙に油を塗布して防水性を高め、傘や合羽などの雨具も作られました。

和紙の用途をまとめした。

  • 記録:書物、巻物、日本画紙、版画紙、書道紙、手紙、色紙、紙幣
  • 建具:障子、襖、衝立、屏風
  • 明かり:提灯(ちょうちん)、行灯(あんどん)、ぼんぼり
  • 雨具:傘、合羽(かっぱ)
  • 日用品:折り紙、紙衣、扇子、うちわ、紙袋、懐紙、鼻紙、尻拭き紙

浮世絵で見る和紙の用途


江戸時代に入ると和紙は庶民の日用品に使われるようになります。
庶民の様子を描いた浮世絵から、和紙がどの様に使われたか、読み取ることができます。

手紙と行灯

江戸時代 中期の絵師、鈴木春信の作品です。
手紙(もちろん和紙)と行灯(和紙のシェード)が描かれています。
手紙を読んでいて手元が暗くなったのか、行灯に明かりを灯そうとしている場面です。

鈴木春信の作品 手紙と行灯の絵

『座敷八景 行燈の夕照』/鈴木晴信
『座敷八景 行燈の夕照』のダウンロードはこちらから

和傘

こちらも鈴木春信の作品です。
鈴木春信の作品には和傘が多く登場します。和傘が庶民に広く使われるようになるのは江戸時代に入ってからです。

鈴木春信の作品 和傘

『雪中相合傘』/鈴木晴信 
『雪中相合傘』のダウンロードはこちらから

建具と明かり

歌川広重「東海道五十三次の内 赤坂」は夕食前の旅籠の様子を描いた作品です。
多くの和紙用品が描かれています。画面左から、障子、襖(ふすま)、行灯(あんどん)、提灯(ちょうちん)、女中部屋の衝立(ついたて)と5種類の和紙用品が登場します。
和紙がいかに生活に溶け込んだ素材だったか、垣間見ることができます。

赤阪 旅舎招婦ノ図』/歌川広重


『赤阪 旅舎招婦ノ図』/歌川広重 
『赤阪 旅舎招婦ノ図』のダウンロードはこちらから

和紙の新たな活用


時代とともに和紙を利用する階層が、国家→貴族→武家→庶民へと広りました。
利用層が広がると、使用する目的も記録→芸術→建具→日用品へと広がり、日本文化に深く根ざした素材になりました。

さまざまな用途で使われてきた和紙ですが、明治以降、洋紙や石油由来の新素材が普及すると、和紙は新しい素材に置き換わっていきます。

近年は和の文化を象徴する素材として、人に渡すモノ、飾るモノとしての利用が注目されています。
・人に渡すモノ:名刺、はがき、封筒、便箋、商品ラベル
・飾るモノ:写真用紙、絵画用紙、和紙の風合い生かしたインテリア

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浮世絵には大判、中判、小判、等のサイズがあり、最も一般的なサイズが大判(約39cm☓26.5cm)です。
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参考文献:和紙の手帳Ⅰ(改訂版)/全国手すき和紙連合会