近代絵画に大きな影響を残したゴッホですが、その生涯はわずか37年余りです。
ゴッホは生涯で2000通もの手紙を残しました。ゴッホが手紙で解説した『アルルの寝室』を手紙の朗読とともに紹介します。
またゴッホの手紙をテーマにした映画『ゴッホ 最期の手紙』を紹介します。
ゴッホの生涯｜わずか10年の画業でした
フィンセント・ファン・ゴッホは1853年、オランダで牧師の子として生まれました。
画廊の店員、牧師見習い、寄宿学校の教員、書店員などの職業につきますが、長続きしません。弟テオの勧めもあり、27歳で画家になる決心をし、絵の勉強を始めました。
初期の絵は農民画家と呼ばれるミレーの影響を受け、暗い色調の絵でした。
1886年に画商である弟のテオを頼ってパリに出て、印象派の画家と交流を持ちます。浮世絵と印象派の画家との出会いが、ゴッホの作風に大きな変化をもたらしました。
1888年2月に「日本の気候に近い」と信じた南仏のアルルに居を移します。この地で数々の傑作を残したのです。
1888年10月からアルルでゴーガンとの共同生活を始めますがうまくいかず、1889年5月に自身の耳を切り落とす「耳切り事件」を起こします。治療のためにプロバンスの精神治療院に移ります。
1890年5月にパリ近郊のオーヴェール・シュル・オワーズに移ります。同年7月に自らの腹部に銃弾を打ち込み、37年の生涯を終えました。
ゴッホの手紙｜2000通もの手紙が残っています
ゴッホが家族や友人に宛てた手紙が2000通程度残っています。その中で一番多いのは弟テオへの手紙です。
オランダのゴッホ美術館では所蔵するゴッホの手紙をネットで公開しています。（英語とオランダ語）
ゴッホの手紙のダイジェスト版はこちらからどうぞ（ゴッホ美術館のサイトへリンクします。）
ゴッホの手紙の全書簡はこちらからどうぞ（ゴッホ美術館のサイトへリンクします。）
ゴッホの手紙は一部が日本語に翻訳され、文庫本『ゴッホの手紙』として出版されています。
『ゴッホの手紙』には芸術論、絵画論、日常生活、日本への憧れ、絵の具や生活費の工面まで、さまざま話題が書かれています。
浮世絵の影響と日本への憧れ
浮世絵と出会ったゴッホは、明るい色調や大胆な構図に強い関心を寄せ、影響を受けます。
ゴッホは数百点の浮世絵を所有していました。オランダのゴッホ美術館では、ゴッホの所有していた絵画を公開しています。
詳しくはこちらからどうぞ（ゴッホ美術館のサイトへリンクします。）
ゴッホが南仏のアルルに行ったのは、浮世絵のような鮮やかな色彩を求めたからです。1888年6月にアルルから弟テオに宛てた手紙に、日本への憧れが書かれています。
たとえ物価が高くても南仏に滞在したいわけは、次の通りである。日本の絵が大好きで、その影響を受け、それは全ての印象派画家たちにも共通なのに日本へ行こうとはしないーー つまり、日本に似ている南仏に。結論として、新しい芸術の将来は南仏にあるようだ。
『ゴッホの手紙』/中巻/第500信/岩波文庫 より
しかし、一人でいるのはまずい。2、3人で互いに助け合った方が安く生活できる。
君が当地にしばらく滞在できると嬉しい、君はそれをすぐ感じ取り、ものの見方が変わって、もっと日本的な目でものを見たり、色彩も違って感じるようになる。
長い間滞在するとすれば、確かに自分の性格も変わってしまうだろう。
日本人は素描をするのが速い、非常に速い、まるで稲妻のようだ、それは神経が細かく、感覚が素直なためだ。
『アルルの寝室』｜描いたのは安らぎの空間
『アルルの寝室』は1888年10月頃の作品です。ゴーガンがアルルに来ることになり、ゴーガンをもてなすために書いた絵です。
作品を見ながらテオに宛てた手紙の解説を聞いてみましょう。
今度のは僕の寝室で実に簡単なものだが、その代わりここでは色彩が問題になるわけで、単純さによってどっしりとした様式を与えることで、だれにでも安息と眠りとを暗示するものでなければならない。要するにこの絵を見れば、頭が休まる、あるいはむしろ想像力が休まる、というものでなければならないのだ。壁は淡い紫色。床は赤いタイルだ。
『ゴッホの手紙（テオドル宛）』/下巻/第554信/岩波文庫
寝台とイスの木部は新鮮なバターのような黄色で、敷布と枕は非常に明るい緑がかったレモン色だ。掛けぶとんは深紅色。窓は緑色だ。化粧テーブルはオレンジ色だし、金だらいは青だ。 扉は藤色。あるのはそれだけー鎧戸を締め切ったこの部屋の中には、他には何もない。
こうなると、家具のがっしりした形がやはり落ち着いた安息感を表現することになる。壁に掛かった肖像画と、鏡が1枚と、タオルと、何着かの衣類。額縁は－－この絵の中にはほかに白がないから、白がいいだろう。
『アルルの寝室』は３つの作品が残っています。制作順に並べると以下になります。
①1888年10月：ゴーガンがアルルに来る前に描かれた作品（ゴッホ美術館蔵）
②1889年9月：ほぼ同じサイズで複製（シカゴ美術館蔵）
③1889年9月：サイズを縮小して複製（オルセー美術館蔵）
テオ宛の手紙で説明されている作品は①の作品です。今回の動画に使用したのは②の作品です。①の作品との大きな違いは床の色です。①の作品では床は一面赤でしたが、②の作品の床は赤と緑の まだら模様です。
『ゴッホ 最期の手紙』｜ゴッホ作品がアニメーションで動きます
ゴッホの手紙にまつわるエピソードは、映画にもなりました。
邦題が『ゴッホ 最期の手紙』という映画です。
（2017年イギリス・ポーランド／96分／原題：LOVING VINCENT）
「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ。」という手紙（テオ宛の最後の手紙）の一文からインスピレーションを受けて制作されました。
ゴッホの絵をアニメーション化する事により、ゴッホの名作の数々が動き出します。ゴッホファンならずとも一見の価値のある映画です。
舞台はゴッホの死から１年後のフランスです。主人公はルーランという青年で、ルーランがゴッホの手紙を弟のテオに届ける旅に出る、というストーリーです。
各地を訪ねる中で、ルーランはゴッホの死の真相を突き止めようとするのです。
いかがでしたか。ゴッホの残した膨大な手紙の一部を紹介しました。
近代絵画に大きな影響を残したゴッホですが、その画業はわずか10年余りです。
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