みなさんは時代小説家、藤沢周平(1927-1997)をご存知ですか。藤沢周平は江戸時代を舞台に、多くの時代小説を残しました。
藤沢周平は浮世絵の愛好家でもありました。喜多川歌麿や葛飾北斎、歌川広重が主人公の作品もあります。
藤沢周平のデビュー作『溟い海』で登場する、『東海道五十三次の内 蒲原』の一節をご紹介します。
藤沢周平について
藤沢周平は山形県鶴岡市出身の小説家です。
小説のジャンルは時代小説で、江戸時代の武家や町人の世界を情緒豊かに描きました。
原作は数多くのテレビドラマや映画になっているので、小説は読んだことはなくても、映像で作品を知った人は多いと思います。
藤沢周平は浮世絵の愛好家でもあり、「時代小説を書こうと思い立った時、北斎や広重の絵がひとつの入り口になった」と述べています。
浮世絵を題材にした藤沢周平の作品は以下です。
■『喜多川歌麿女絵草紙』
喜多川歌麿を主人公にした小説です。
■『江戸おんな絵姿十二景』
「一枚の絵から主題を得て、ごく短い一話をつくり上げるといった趣向の企画だった。」(あとがきより)
■『旅の誘い(短編集『花のあと』に収録)』
歌川広重が主人公の小説です。『東海道五十三次』を発行してから、次の木曽街道の連作を出す間の広重と版元との関係を描いています。
■『溟(くら)い海』(短編集『花のあと』に収録)
葛飾北斎をモデルにした『溟い海』について
藤沢周平が作家デビューしたのは44歳。『溟(くらい)い海』が第38回オール讀物新人賞を受賞し、作家としてデビューしました。
『溟い海』は晩年の葛飾北斎が主人公です。
北斎は70歳になった頃、『富嶽三十六景』を出版しました。それまでの浮世絵は美人画や役者絵が中心でした。『富嶽三十六景』は浮世絵に風景画という新たなジャンルを切り開きました。『富嶽三十六景』は売れ行きが好調で、最終的には46作品が出版されました。
『富嶽三十六景』全46作品はこちらからダウンロードできます。
その後出版した、『富獄百景』はモノクロ作品のためか、『富嶽三十六景』ほどの人気が出ずに、北斎の気分は晴れません。
そんな折、若手の浮世絵師、歌川広重が『東海道五十三次』という風景画の新シリーズを出すと聞いて、評判が気になっていました。たまたま、版元を訪ねた北斎は、そこで初めて『東海道五十三次』を見ました。
藤沢周平はその時の北斎の心境を、次のように語らせています。
(画像をクリックまたはタップすると朗読が始まります。)
恐ろしいものをみるように、北斎は『東海道五十三次之内 蒲原』とある、その絵を見つめた。闇と、闇がもつ静けさが、その絵の背景だった。画面に雪が降っている。寝しずまった家にも、人が来、やがて人が歩み去ったそのあとにも、ひそひそと雪が降り続いて、止む気配もない。その音を聞いた、と北斎は思った。
溟い海 / 藤沢周平
『東海道五十三次』は大人気となり、広重は風景画家の座を不動のものにしました。
いかがでしたか。浮世絵を見ながら藤沢文学を味わうと、浮世絵の新たな魅力を発見できるのではないでしょうか。
ご家庭のプリンタで『蒲原』を和紙に印刷して鑑賞しませんか。
『東海道五十三次』の他の作品は下記バナーからダウンロードできます。
参考文献:『溟い海』は短編集『暗殺の年輪』(文集文庫)に収録されています。