日本絵画の中で、世界で最も有名な作品の一つです。静と動、遠と近、人と自然、海と空の対比が表現されています。画面の3/4を占める波は、北斎が長い画業で極めた描写です。この作品は欧州ではグレート・ウェーブと名付けられました。
富士吉田市の三ツ峠近辺から描いた作品です。凱風(がいふう)とは夏の南風の事です。山頂に雪がわずかに残っているので、季節は初夏でしょう。空に浮かぶいわし雲と緑の樹海が富士山の美しい姿を演出しています。
白雨とはにわか雨の意味です。遠くには入道雲が沸き立ち、手前の真っ黒な雷雲の中に稲妻が走っています。富士宮駅付近から見た姿のようですが、富士山を見おろすような構図で描かれています。
万年橋は現在も深川萬年橋として存在します。万年橋下から隅田川方面を望む方角に富士山がありますが、現在は建物に阻まれて見えません。美しいアーチの欄干と、橋の上の賑わいが印象的です。
現在の名古屋市中区富士見町付近です。富嶽三十六景の中では富士山から最も遠い場所です。北斎は幾何学構図を好んで使いました。本作品は丸い桶の中に三角の富士山と四角の田を配しています。
山梨県上野原市に犬目という地名が残っています。昔の甲州街道が犬目宿を通っていました。初夏の富士山が白、青、茶の3色で描かれています。手前の犬目峠の緑色がのどかな雰囲気を作り出しています。
現在の足立区千住近辺から富士山を見た風景です。手前に見えている木の枠は水門です。4本の垂直線が絵にアクセントを与えています。釣りをしている二人の脇を、馬子が富士山を眺めながら通り過ぎます。
渋谷区神宮に竜巖寺というお寺があります。江戸時代には円座松という巨木があり、江戸の名所でした。丸い円座松と三角の富士山を対比させて描いています。景色を見ながら酒を酌み交わす人の姿が描かれています。
神田駿河台近辺からの眺望です。江戸時代には多くの武家屋敷があり、にぎやかな町でした。商人や物売り、巡礼、共連れの武士、旅人、等さまざまな身分の人が描かれていて、街の活気が伝わってきます。
玉川は東京、神奈川を流れる現在の多摩川です。江戸時代初期には橋が掛かっていましたが大水で流され、北斎の時代には渡し船になりました。川の水面の筋は空摺りという、紙に凹凸をつける手法で描かれています。
湘南の七里ヶ浜から富士山を望むと、手前に江ノ島が見えます。本作は藍色の濃淡で景色を表現する、藍摺(あいずり)という手法です。藍色はペルシアンブルーという海外からもたらされた色材で描かれています。
武陽とは江戸を指します。佃嶌は現在の中央区佃近辺です。今は陸地になっていますが、江戸時代は佃島という島でした。佃嶌を取り巻くいろいろな種類の船と景色を藍摺(あいずり)で描いています。
現在の茨城県潮来(いたこ)市附近から描いた富士です。シリーズの中で最も東の場所です。手前は苫舟(とまぶね)という屋根付きの舟で、舟の半分をクローズアップした大胆な構図が印象的です。
山梨県を流れる富士川は日本三大急流の一つです。富士川沿いにある鰍沢(かじかざわ)附近で描かれた作品です。投網を引き上げる漁師と、渦巻く波をリアルに描いています。一方、富士山は単純化され、輪郭線のみで表現しています。
長野県の諏訪湖北岸から富士山を望んだ作品です。岬の先端の城は高島城です。現在の城は内陸にありますが、干拓の行われる前は湖に面した水城でした。2本の松を中央に配した構図で遠近感を演出しています
遠江は静岡県西部地方です。職人が材木の上と下の両方から木を挽いています。斜めに横切る大きな角材が、空間を2分しています。三角形の支柱と富士を四角形の材木を対比させる構図が印象的です。
山梨県と静岡県の境にある籠坂峠から描いた富士山です。手をつないで巨木の大きさを測る旅人がいます。垂直な巨木と円錐形の富士山で風景を仕切り、調和のとれた空間をデザインしています。
江尻は現在の静岡県清水市内にありました。この作品の主役は風です。風にしなる木や、風に舞う葉、紙、笠をダイナミックに描いています。風による動の表現に対して、輪郭線のみで描かれた富士山が背後に静かにたたずんでいます。
東都浅草本願寺は現在の東本願寺です。本堂の巨大な屋根を瓦職人が補修しています。左にそびえるのは井戸掘り櫓(やぐら)です。右画面の巨大な三角屋根に対し、左には垂直な櫓を配してバランスを取っています。
梅沢は神奈川県二宮町にあった、東海道沿いの休憩所です。相模湾に注ぐ中村川のほとりから、富士を望んだ絵柄です。祝い事を表す鶴が描かれているので、新春をイメージさせる作品です
下目黒一帯は丘陵地帯でした。今でも坂が多く、当時の名残があります。江戸時代には幕府の鷹場がありました。中央の2人の手には鷹が止まっているので、鷹匠であることがわかります
千葉県木更津沖を行く弁財船(べざいせん)を描きました。弁財船は江戸に物資を運ぶ大型帆船です。水平線や湾曲した帆、垂直な帆柱、帆綱の三角形、と至る所に幾何学構図が埋め込まれています。
登戸浦は千葉県千葉市内にある地名です。現在は埋め立てられて内陸にありますが、江戸時代は海に面していました。遠浅の海では子供が遊び、潮干狩りをしている人がいます。
吉田は愛知県豊橋市にあった、東海道の宿場でした。富士の見える茶屋でくつろぐ人々を描いています。富士を眺める女性、煙管(きせる)を吸いながらくつろぐ旅人、駕籠かき人夫、と人々の仕草を生き生きと描いています。
礫川(こいしかわ)は現在の文京区小石川付近です。富嶽三十六景の中で唯一の雪景色です。雪の上がった朝に、見晴らしの良い茶屋で、身を乗り出して雪景色を楽しむ女性たちの様子が描かれています。
御厩川岸(おんまやがし)は、台東区蔵前と対岸の本所を結ぶ渡し場があった所で、現在は厩橋(うまやばし)が架かっています。遠景の富士や家並みは輪郭線がなく、夕暮れのシルエットに浮かぶように描かれています。
富士の裾野が美しく見える、田子の浦沖から見た富士です。荒波の舟の上では男たちが力をこめて櫓を漕いでいます。浜には塩田が広がり、多くの人が働いています。
神奈川県の片瀬浜から江の島と富士を望んだ作品です。干潮時に現われる砂州を、馬や人が渡っています。新緑におおわれた江ノ島と静かな海に浮かぶ船が、うららかな春を感じさせます。
五街道の起点である中央区日本橋です。橋の上から西方を望むと、江戸城と富士山が視界に入ります。橋の上は荷車や行き交う人でごった返して、当時の日本橋の活気が伝わってきます。
三井見世は呉服を扱っていた三井越後屋で、現在の日本橋三越です。瓦職人が屋根の上で作業しています。空に舞う凧と職人が投げる荷物が、画面に動きを作り出しています。
箱根芦ノ湖から見た富士です。右手に見える建物は箱根神社、後ろの丸い山は駒ケ岳です。人の姿はなく、木々の緑と山の薄黄色が、穏やかで静寂に包まれた雰囲気を作り出しています。
三坂は河口湖の北にある御坂峠です。富士山がきれいに見える場所として有名です。夏の富士を描いていますが、湖面に映る富士には雪景色の姿が描かれています
穏田は現在の渋谷区原宿あたりです。当時は田園風景だったことがわかります。水車小屋を中心に、脱穀する材料を運ぶ男達、洗濯する女、亀を連れて遊ぶ子供が描かれています
東海道の宿場のあった保土ヶ谷から見た富士です。近景の旅人と遠景の富士の間の松並木が、奥行きを感じさせます。印象派の画家モネのポプラ並木に類似の構図が見られます。
関屋の里は、現在の京成関屋駅付近を指します。堤の上を馬で疾走する3人の武士が描かれています。着物や馬の尾が風にはためく様子からスピード感が伝わります。
五百羅漢寺は現在の江東区大島にありました。堂内の高欄がさざえの形に似ているので、さざえ堂と呼ばれていました。さざえ堂からの眺めは評判で、多くの人が訪れる名所になっていました。
身延山には日蓮宗の総本山、久遠寺(くおんじ)があります。山梨県側から見る富士を裏富士、静岡県側から見る富士を表富士と呼びます。中央の川は、日本三大急流の一つ、富士川です。
千住は江戸から1つ目の宿場で、当時から賑わっていました。手前の隊列は国元へ向かう大名行列です。農婦2人が道端に座って、のんびりと大名行列を見送っています。
駿州は現在の静岡県で、当時から茶の産地でした。富士に残雪が残っているので季節は初夏でしょうか。茶摘みをする女たち、茶を運ぶ男たちと、当時の茶園の様子が描かれています。
江戸時代の御殿山は東京湾を一望できる桜の名所でした。満開の桜の下で酒を酌み交わす人、子供を肩車して歩く婦人、扇子を広げて踊る人、と花見を楽しむ庶民の姿を描いています
伊沢は山梨県の石和温泉近辺にあった地名です。石和は甲州街道沿いの宿場町で、近くを笛吹川が流れています。空が朝焼けに染まる時刻に旅立つ人々を描いています
墨田区立川を流れる竪川の両岸にあった材木問屋を描いています。垂直に立つ材木と高く積み上げられた薪を前面に描いた構図が目を引きます。材木を投げて渡す職人が、絵に動きを与えています。
金谷は東海道の難所で知られる、大井川の西岸にある宿場町でした。現在の静岡県島田市で大井川の西岸から富士を眺めた構図です。波がうねる大井川を人や荷物が渡る様子を緻密に描いています。
相州仲原は現在の神奈川県平塚市中原です。富士山の手前にある山は、霊山として人気のある大山です。渋田川を渡って大山詣でに向かう人が描かれています。
大野新田は静岡県富士市に今も地名を残します。当時は沼の点在する湿地帯でした。手前に芦(あし)束を背負った牛と行き交う人々、背後には静かにたたずむ富士を描き対比させています
信仰の山でもあった富士山頂を巡る人々を描いています。岩穴の中で休憩する人、足場の悪い道をかがんで歩く人、黙々とはしごを登る人、と色々な人を描いています